1)日本の西洋蜜蜂史の始まり


  

 大日本農史第3巻今世の明治8年9月の記録に以下のようにあります。

 

 是月勧業寮をして内外博覧会の事務を管理せしむ。逸農事図解独30枚並びに付録接木法を翻訳して頒布す。此の書は勧業寮五等出仕田中芳男墺国(オーストリア)より持ち帰りて本寮に進納せしものにして耕種牧畜より農産製造に捗る図解なり。  (大日本農史第3巻今世p177)

 

大日本農史第3巻今世によると、明治新政府は日本の近代化の取り組みとして、西洋諸国の情報を集め、各種産業部門振興施策を進めました。その推進者となったのが明治4年~6年欧米視察をした岩倉使節団と明治6年にオーストリアのウイーンで開催された万国博覧会派遣団でした。ウイーン万国博覧会派遣団の責任者田中芳男は、全30巻の「独逸農事図解」の原板を入手し日本に持ち帰り、これをオランダ人ファンカステールに翻訳させ、明治8年(1875)9月に出版しました。

 

「独逸農事図解全30巻」の内容は以下のようです。

 

1 果樹栽培法 第2 葡萄栽培法 第3 葡萄酒管理法 第4 糞培法 第5 退水法 第6 牧場灌水法 第7 蜜蜂養法 第8 蔬菜類耕種法 第9 葎草培養法 第10 養蚕11 魚類蕃殖法 第12 樹林栽殖法 第13 林木伐採法 第14 田圃耕作法 第15牛法 第16 牧牛利用説 第17 果樹施行法 第18 煙草種芸法 第19 亜麻種収法 第20 甜菜培養法 第21 阿利襪栽培法 第22 庖厨料理法 第23 牧馬法上 第24馬法下 第25 養豚法 第26 家禽養法上 第27 家禽養法下 第28 牧羊法 第29耕作林木利害諸鳥説上 第30 耕作林木利害諸鳥説下 附録 接木並器具

 

 独逸農事図解第7が「蜜蜂養法」と題する養蜂図解です。「蜜蜂養法」とは現代風に言うと「蜜蜂飼育法」あるいは「蜜蜂の飼い方」です。この「蜜蜂養法」の出版が、日本における西洋蜜蜂飼育の歴史の始まりです。明治政府は西洋の養蜂技術を取り入れ、産業として養蜂の育成をめざしたのです。

 

独逸農事図解第7蜜蜂養法(内務省、明治8年、1875、三重県立図書館所蔵)

三重県立図書館のホームページはこちら

http://www.library.pref.mie.lg.jp/

 

 

「蜜蜂養法」は1枚の大判の図解で横70cmx縦55.5cmです。16折の状態で、おおよそA5サイズです。

 

(蜜蜂養法の本文及び絵図、三重県立図書館所蔵独逸農事図解第7より)

 

 「蜜蜂養法」の画には解剖画もあり、当時ドイツでは昆虫学がかなり進んでいたことがわかります。巣房のハニカム構造の解明画もあります。害虫としてハチノスツズリガやダニやアリが紹介されています。飼育装置として従来型の籠や種々の巣箱が紹介されていますが、新式の巣枠式飼育も始まっていたようです。飼育器具としては蜜刀と蜜しぼり桶が見えます。燻煙器と蜂蜜遠心分離器はまだなかったようです。画中央に見えるのは、現代では余り見ることのない養蜂舎と言うものです。右下には、その見取り図があります。

 

 

 巣箱については、

グルーベン・ホルスト、フランソワ・ユーベル、ジョハン・ゼエルゾンとの関係の解説

 ーー>準備中

 

説明文の活字化ーー>準備中

 

 

  日本における西洋蜜蜂飼育の歴史の始まりとなった「蜜蜂養法」は全国に頒布されました。独逸農事図解」の蔵書が現在も下記のように全国の図書館にあることからもその全国頒布の様子がうかがえます。

 

北海道立図書館

青森県立図書館

秋田県立図書館

岩手県立図書館

宮城県図書館

福島県立図書館

栃木県立図書館

群馬県立図書館

埼玉県立久喜図書館 

千葉県立中央立図書館

千葉県立西部図書館

国立国会図書館 

東京都立中央図書館 

神奈川県立図書館

神奈川県立川崎図書館

横浜市中央図書館

山梨県立図書館

新潟県立図書館

静岡県立中央図書館

愛知県図書館

名古屋市舞鶴中央図書館

三重県立図書館

富山県立図書館

石川県立図書館 

滋賀県立図書館

和歌山県立図書館

大阪府立中央図書館 

大阪市立図書館

兵庫県立図書館

岡山県立図書館

広島県立図書館

香川県立図書館

愛媛県立図書館

福岡県立図書館

福岡市総合図書館

長崎県立長崎図書館 

大分県立図書館

熊本県立図書館